120 過保護棒
その昔。
我が家は汲み取り便所だった。
いわゆるボットン便所。
その後、ボットン便所にガワだけ洋式便器をかぶせるニセ洋式便器に変わり
現在はウォシュレットつき水洗便所へと進化した。
で、汲み取り時代の話だが、、、
弟がまだ小さくて、ケツに広がる暗黒ホールを非常に怖がった。
「吸い込まれてしまう」と言う恐怖心から便が出来ないというのだ。
家族会議になった。
かぁちゃんがキンカクシのちょうど30cmほどの高さに
床と平行に走る、手すりになる棒を取り付けた。
これに掴まる事で、闇の世界に引き込まれず便が出来る。
以来、弟が高校に上がるまで、その棒は取り付けられていた。
で、そろそろ弟も大きくなったし棒を取り外してもいいんじゃないか?と
ごく自然な流れで、誰かが棒の卒業を言い出した、、、
今、考えると、大きくなりすぎた兄が、その棒に掴まる事でお尻が後ろに行き過ぎて
よくウンコが便器の外に落ちている事があった。
そぅ、そろそろ棒を取り外す時期が来ていたのだ。
ところが、いざ棒を外してみると、家族全員が驚いた。
「暗黒ホールに引きずり込まれそうになるのだ」
すっかり棒に掴まる事に馴れてしまった我々は、
もはや棒なしでは生きられなくなっていた、、、
「かぁさん、ダメだ。棒は取り外せない」
「掴まってないと、ダークフォースに取り込まれてしまう」
「お兄ちゃん。もっと前でウンコしてね」
結局、ニセ洋式便器が登場するまでの間、
我が家のボットン便所は棒とセットで存在し続けた。
進化する文明は、時に、我々を退化させているのかもしれない。