29 キャパシティー

DSC00597.jpg

その空間はもっと可能性があったはずだ。

家族が楽しく晩餐しててもよかった。

ラガーマンが試合を終え、汗を吸ったシャツを脱ぎ
半裸のまま学園のマドンナの話に花を咲かせててもよかった。

両サイドの牢獄に囚人達がいて、中央の通路に人が通るたび
檻の隙間から手を伸ばして物乞いしててもよかった。

でも、そこは「ポリバケツ」を置くためだけの空間でしかない。
半永久的にポリバケツ置場に定められた。
当の空間も、何の疑問も抱いてない。
自分はポリバケツを置く事しか出来ないものだと信じきっている。

以前、地下鉄に乗っていて、こんな人に会った。

その人は、アイダホのジャガイモ畑でトラクターを運転してそうな
ヒゲズラで巨漢の外国人だった。
オーバーオールをきっと何本も持っている。

そんなマクガイヤー君が定員3名のシートを一人で占領していた。
他に座る席も見当たらないし、僕は彼の隣に座った。
2名でもいっぱいいっぱいだった。
明らかに奴のケツが中央よりのせいだ。
ずれてもくれない。
で、僕がジロジロと見てたら、しばらくしてこぅ言った。

「あのさぁ〜さっきからジロジロ見てるけど
 なんか文句あるわけ?ふざけんじゃねーぞバカヤロー」

怒ってる事以前に、ものすごい上手な日本語にびっくりした。
「うまいなぁ〜日本語」

ポリバケツ置場を開けたらポリープ検査の真っ最中の肛門科の先生と目が合ったぐらい驚いた。

逆にこんな事も思い出した。

子供の頃、兄と歯医者に行った。
僕と兄は隣り合った席で治療を受けた。
兄が口を大きく開けすぎてアゴがはずれた。
一度アゴがはずれると癖になると言うが、兄も癖になっちゃってる一人だった。
で、こぅ言った、、、「アゴァアハフヘハァ〜(あごがはずれた)」

「まんまじゃねーか!」と思った。
なにひとつヒネリのない、そのまんまの一言にちょっとがっかりした。

時には「ポリバケツ置場」だって、扉の向こうに違う空間が広がっていて欲しい。


コメント





保存しますか?