125 指差し確認おじーさん
学生時代、夜中のデパートでバイトしてた。
閉店後、でっかくて薄暗い、ウルトラセブンのロケ場所みたいな
独特の空気を醸し出す夜のデパート。
ボクはそこでディスプレイを客の居ない間に取り替える仕事をしていた。
クリスマスと、正月は飾り付けが尋常でなく、肉体労働に近い。
が、それ以外は、夜のデパートが怖くなければ誰でもできる仕事だ。
3年位やってたんじゃなかったかな?
最後の方は、デパートの壁一面に飾るクリスマスツリーの電飾の扱いに慣れていたから、、、
で、その頃を振り返ると、「指差し確認おじーさん」の事を思い出す。
同じ夜のデパートには、まだ人生の負け組なんて言葉が無かった時代だけど
頭のてっぺんをよく見ると白旗が刺さっている警備員達が居た。
子供の頃、将来の夢は?と聞かれ、絶対に「警備員」と答えなかった人達だ。
そんな覇気のない警備員の中で一人、ボクが気に入った老人が居た。
それが「指差し確認おじーさん」だ。
目を爛々と輝かせ、仕事に情熱を燃やし、夜のデパートを巡回していた。
そして、ひとつひとつ指差し確認しながら、ワンフロアで何度も同じ事を言っている、、、
「異常なーし!」
異常なんて、田舎のデパートにあるわけが無い。
実際、「異常なし」以外の言葉を発するおじーさんを知らない。
それでも、毎晩毎晩、同じテンションで指差し確認を続けていた、、、
「異常なーし!」
一度、何とかおじーさんに異常を体験させてあげたくなったボクは
おじーさんがボクの横を通り過ぎる瞬間くしゃみをした。
くしゃみをすると同時に、かかとで地面を蹴り、後ろにすっ飛んでみた。
漫画の様に、くしゃみの風圧で後ろに飛んだ様に見える、大学生のボクがしきりにやってた持ちネタだった。
おじーさんはボクを一瞥し、おじーコンピューターで解析を始めた。
どうやら異常とまでは認められなかったようだ。
すぐに仕事に戻ったおじーさんは、しばらくしてから遠くの方で
まるで、ボクに言うかの様に夜のデパートに声を響かせた。
「異常なーし!」
おじーがこっちを見た時の目を忘れる事が出来ない。
本気で異常を探す目だった。
すごい。